子供のときからプログラミングを学ぶ必要性とは? 社会背景から詳しく解説
2020年から、小学校においてプログラミング教育が必修化されました。しかし、なぜ小学生の頃からプログラミング教育が必要なのでしょうか。その理由には、現在起こっている問題、そして今後起こりえる社会の変化が関わっています。本記事では、子供のときからプログラミングを学ぶ必要性について、解説します。
- 現在の課題
- これからの社会
- プログラミングがなぜ必要?
- プログラミングの必修化によって何が変わる?
- 各学校段階におけるプログラミング教育のねらい
- プログラミングを学ぶことで身につく能力・知識
- プログラミングの必要性を語る著名人
- プログラミングの学び方
- 小学生がプログラミングを学ぶのにおすすめの教材
- プログラミングを学ぶ上で押さえておくべきこと
- 子供でもプログラミングは学ぶべき
現在の課題
IT人材の不足
情報技術(IT)の急速な進化に対して、日本の人材需給状況は、深刻なIT人材不足に直面しています。経済産業省の調査(※1)によると、2030年には約45万人〜79万人が不足すると試算しており、またこの流れが今後も拡大すると予想しています。
高まるIT需要に対応しIT人材不足を補うため、将来のIT人材を育成していかなければなりません。
急速な技術革新に追いついていない
日本では、すでに多くの業界で情報システムが導入されています。しかし、レガシーシステムと呼ばれる老朽化・複雑化したシステムが多数残っており、それらを運用・維持するための膨大なコストがかかっています。このため、急速な技術進化に追いつけていないのが現状です。
IT人材が不足し、技術進化に追いつけないために、日本の経済は急速に悪化しています。経済産業省が発表した「DXレポート」(※2)では「2025年の崖」として、2025年以降“最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある”と推測しています。
※2 出典:経済産業省「DXレポート」~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
将来仕事を選択する幅を増やす
今やIT業界に限らず、どの仕事をするにしても職場でコンピュータを使う機会はあります。最低限コンピュータが使えなければ、仕事をする上で支障をきたすと考えてよいでしょう。
子供たちが仕事を自由に選択するためにも、将来に向けてコンピュータやプログラミングを学ぶ必要があるのです。
これからの社会
人口減少や少子高齢化によりますます人手不足に
文部科学省の資料(※3 )では、日本の人口予測は2004年12月の12,784万人をピークに、急激な減少傾向となっています。加えて高齢化率はどんどん上昇し、2100年には40%を超えると言われています。
※3 出典:文部科学省「小学校プログラミング教育の趣旨と計画的な準備の必要性について」
IT人材が不足していくだけでなく、働き手も急激な減少が予想されており、今後ますます人材の確保が困難になるとされています。
ロボットの進化
すでに工場では工業用ロボット作業を行っており、介護の現場では介護用ロボットの導入が進んでいます。今後も多くの現場でロボットの導入が進むと予想されています。
ロボットを生み出すのも、ロボットを扱うのも、私たち人間です。ロボットに頼るだけでなく、ロボットがどのようにして動いているのか、扱う側も知っておく必要があります。
AIが人の代わりになる
AI秘書やAI教師など、あらゆる場所でAIによる自動化が進んでいます。今後ますますAIは進化していき、より多くの労働を代行することでしょう。各国のさまざまな論者・識者からは、“やがてはAIが人を超える”、いわゆる技術的特異点という概念も提唱されています。
特に日本ではこれから人口が減少していくため、多くの現場でAIが知的労働を行うものと見られています。
プログラミングがなぜ必要?
人口減少や情報技術の急速な発展が背景にある中で、なぜ「プログラミング」が求められているのでしょうか。その理由について解説します。
プログラミングが社会インフラになる
情報技術が社会インフラの一端を担っており、今後も情報技術の発展と共に重要なインフラとなることが予想されます。情報技術の根幹はプログラムにあります。ロボットやAI、IoTなどのあらゆるコンピュータは、プログラムと呼ばれる指示書によって動いています。
情報技術が発展した社会を生き抜くためには、プログラムを作る「プログラミング」を理解することが最も重要です。プログラミングを理解することで、コンピュータを上手に動かすことができるのです。
AIに仕事を奪われる
今後AIは急速に進化し、“人間を超える”とまで言われています。2045年頃にはAIが人間の代わりに知的労働を行う時代になるとも見込まれているのです。これからは人間が直接仕事をするのではなく、プログラミングによっていかにAIを活かして効率よく仕事をするかが求められます。
AIが普及した時代の中で取り残されないためにも、プログラミングを理解してAIの基本を知っておく必要があります。
世界では既にプログラミング教育が必修化
日本では2020年から小学校におけるプログラミング教育が必修化されましたが、すでに世界では今後の情報技術の進化に備え、多くの国々でプログラミング教育を行っています。
ハンガリーは2003年からプログラミングの授業が導入され、IT先進国のひとつと言われるインドは2005年から、韓国は2007年から選択科目として、他にもエストニアやアメリカ、フランス、ロシア、イギリスでも行われています。フィンランドでも2016年からプログラミング教育が小学校で必修化されています。
これらの諸外国と比べると、日本はかなり遅れていると言わざるをえません。
プログラミングの必修化によって何が変わる?
これまで子供がプログラミングを学ぶ必要性について解説してきました。その必要性を受けて、文部科学省では2020年から小学校でプログラミング教育を必修化とし、2021年から中学生、2022年には高校と、順次必修化を進めています。プログラミングの必修化によって何が変わるのでしょうか。
プログラミング必修化の目的
今後、IoTやAI、ロボットなど情報技術の革新が一層進む「第4次産業革命」が起こると言われています。これにより、人々の働き方やライフスタイルが大きく変わります。今後多くの仕事が自動化され、予測不可能な未来が到来すると言われています。
プログラミング必修化により、特に情報技術の基本となるプログラミングを学び、時代の変化に対応できる人間を育成します。
変化を前向きにとらえる
情報技術の急速な発展によりAIやロボットの社会進出など、我々の生活に大きな変化が訪れることが予想されています。これらの変化は具体的なイメージを持つことが難しく、漠然と「仕事がなくなるのではないか」と不安に感じる人も多いのではないでしょうか。
プログラミング教育ではこれらの変化を前向きにとらえ、AIやロボットを上手に活用し、人生や社会をより豊かにしていくための力を育みます。
主体的・対話的で深い学びに改善する
今では小学生もスマートフォンやゲーム機などでコンピュータを利用する機会は増えています。しかし、スマートフォンやゲームがどのように動いているのかを、知っている小学生は少ないでしょう。
プログラミング教育では、決められた動作をするコンピュータをただ利用するのではなく、コンピュータの仕組みを知り、コンピュータを活用する姿勢を涵養します。
各学校段階におけるプログラミング教育のねらい
必修化されるプログラミング教育は将来的にIT人材の育成を目指したものではありますが、必ずしもプログラマーやシステムエンジニアを目指すものではありません。ここでは小・中・高校の各学校で学ぶプログラミング教育の内容について紹介します。
小学校
小学校では新しく「プログラミング」という科目ができるのではなく、既存の教科でプログラミングの要素を取り入れた授業を行います。プログラミングを体験しながら「コンピュータに意図した動作をさせるにはどうしたらよいか」を考える、プログラミング的思考を身につけることを目的としています。
また、生活の中で多くのものがコンピュータで動いている点を学び、プログラミングによって主体的にコンピュータを活用する態度を育みます。
中学校
中学校ではすでに技術・家庭の授業でプログラミング学習が行われていますが、2021年から始まる必修化に伴い、それらが補強されます。具体的には、今までプログラムを作成することに重点を置いていた点に加え、プログラムを作成して課題を解決することを目的としています。
さらには、チャットなどの双方向ネットワークを利用したプログラミングについても学習します。
高校
高校では2022年から必修化され、新たに共通履修科目「情報Ⅰ」が新設されます。これにより全生徒がプログラミングを始め、ネットワークやデータベース、情報セキュリティの基礎を学習します。
さらに、選択科目「情報Ⅱ」により、日常生活と関連した高度なプログラムを制作し、コンピュータを活かすことを学習します。
プログラミングを学ぶことで身につく能力・知識
プログラミングを学ぶことで、様々なスキルが身につきます。プログラミングに限らず多くの場面で活かせ、大人でも習得しておくと仕事や転職に大変有利です。どのようなものがあるか、解説します。
論理的思考力
プログラミングは簡単な処理の組み合わせによって成り立ちます。用意された関数やロジックをどのように組み合わせて意図した動作をさせるかを論理的に考えることが求められます。
プログラミングができるようになると、1つ1つを論理的に組み立てる論理的思考力が身につきます。この考え方は「ロジカルシンキング」とも呼ばれ、プログラミングに限らず、多くの場所で活かせる重要な考え方です。
問題解決能力
自分が意図した形に動かすのは、簡単ではありません。複雑な動作をさせるには、何度もプログラミングしては動作確認をして修正し、の繰り返しです。何度も問題箇所を見つけては修正するのです。
この繰り返しの行動は、問題解決能力を伸ばします。そのうち、普段の生活の中で問題と思う箇所を即座に見つけ、どこを修正すればよいか気づけるようになります。問題を解決するプログラムを作るためには、必要な能力です。
想像力・表現力
プログラミングは、1から自由にオリジナルのプログラムを作ることができます。ゲームでもWebサービスでも「こういうのがあるといいな」と思ったものを形にすることが可能です。またそれをどのように表現するかも自由です。
そのため、自由な発想で想像力を伸ばし、表現力を伸ばします。最初はできることも少ないですが、プログラミングを学習しできることが多くなればなるほど、プログラミングの楽しさに気づくでしょう。
コミュニケーション能力
プログラミングは、一人黙々とパソコンに向かって行うものと思っている人もいるのではないでしょうか。実際はそんなことはありません。実際IT技術者の職場でも、1つのプログラムを作成するにあたって多くの人とコミュニケーションを行います。
期待する動作にするためにクライアントにヒアリングする、不具合で動かない場合に他のプログラマーに相談する、というように、プログラミングではコミュニケーションが大切です。子供でもプログラミングの授業では話し合いを行います。
コンピュータが動く仕組み
例えばスマートフォンがどのような仕組みで動いているかご存じでしょうか。普段何気なく使っているアプリも、動く仕組みを理解しないまま利用している人もいるでしょう。
コンピュータがどのように動くかを知っている人と知らない人では、多くの差があります。コンピュータが動く仕組みを知らなければ、例えばアプリが突然正常に動作しなくなった場合、どこに問題があるのか、どういう対処をしたらいいのかという考えや判断ができません。コンピュータが広く普及した現在では、このような状況に至ったときにも状況をある程度予想できたり、対応できたりする能力を持っているに越したことはありません。
コンピュータを上手に扱う、コンピュータの価値を高める使い方をする、ということを考えるには、コンピュータが動く仕組みを理解することはとても大切です。
プログラミングの必要性を語る著名
世界で活躍する多くの著名人が、インタビューでプログラミングを学ぶことの必要性を語っています。著名人が語る多くのメッセージの中から、いくつかご紹介します。
(※内容は、参考動画の字幕や、当動画を翻訳したメディアなどをもとに意訳しつつまとめています)
Apple 創業者:スティーブ・ジョブズ
私は、国民全員がコンピュータプログラミングとプログラミング言語を勉強するべきだと思います。なぜなら考え方を学ぶことができるからです。
私は、コンピュータサイエンスを教養だと思っています。
全員が学ばなければならないもので、人生で1年くらい時間をかけて、プログラミングの授業を受けるべきなんです。
参考:https://youtu.be/IY7EsTnUSxY
Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズはプログラミングに必要な「考え方」の重要性を語っています。小学校のプログラミング教育では、この「考え方」を学ぶのが目的です。
第44代米国大統領:バラク・オバマ
プログラミングを学習するということは、学ぶ皆さんの将来にとって重要なだけでなく、アメリカにとっても重要なのです。 アメリカという国が最先端であるためには、プログラミングや技術をマスターしている若い人々が必要不可欠です。新しいビデオゲームを「買う」のではなく、「作って」ください。
最新のアプリをダウンロードして利用するのではなく、自分で設計してみてください。(それらをただ遊ぶのではなく、自分でプログラムする)
誰もがプログラマーの資質を持って生まれたわけではありませんが、少しの努力と、数学と科学の勉強があれば、プログラマーになることができます。あなたが、誰であっても、どこに住んでいたとしても、コンピュータはあなたの将来のなかで重要な役割を占めるのです。
あなたが勉強を頑張れば、きっとその未来はより確かなものとなるでしょう。
参考:https://youtu.be/6XvmhE1J9PY
オバマ元大統領は、世の中にあるゲームやシステムを利用するのではなく、プログラミングを学びコンピュータを活用することが将来において重要であることを語っています。近い将来を見据えていると言えるでしょう。
Facebook CEO:マーク・ザッカーバーグ
私がプログラミングの勉強を始めたきっかけは、コンピュータサイエンスの全てを熟知したいとか、コンピュータの原則をマスターしたいとかいうようなことではありませんでした。
ただ、一つやりたいことがあって、自分や自分の妹たちが「楽しめる」ものを自分で作りたいと思っていたんです。
参考:https://youtu.be/wVn1TqUfZjc
プログラミングの勉強は楽しいものです。「プログラミングが必要だから」という義務感で学ぶより、楽しいと思って学ぶことが重要です。
プログラミングの学び方
「自分がプログラミングを学んでないのに、子供に学ばせるにはどうしたらいいの」と不安に思う保護者の人もいるのではないでしょうか。ここではプログラミング初心者にも役立つ、具体的な学習方法を解説します。
プログラミング教材を利用する
プログラミング教材は、書籍だけでなくネットの情報やYouTubeの動画などもあり、非常に多くの選択肢が身近にあります。プログラミング初心者にもわかりやすく、プログラミングがどういうものかを知るのに役立つため、利用してみるのもよいでしょう。
実際にプログラムを作ってみる
プログラミングを学ぶ一番の方法は実際にプログラムを作ることです。書籍やサイトで情報をインプットするだけでは、理解しても実際にプログラムは作れるとは限りません。意図した動作をするプログラムを作るために試行錯誤することが、最も大切です。
書籍の活用
書籍の活用方法として、最初から最後まで読むのでは時間がかかるばかりか、重要かどうかも意識せず理解しようとするため、効率が悪いです。書籍は以下のような活用の仕方がおすすめです。
・プログラムの例文を実際に動かし、別途解説でその詳細な動作を学ぶ
・例文を自由に改良してみる
・わからない処理、実現したい処理をかいつまんで確認する
プログラミングの学習ではまずプログラムを作ることが大事ですので、書籍はわからないところを補足する形で利用するとよいでしょう。
小学生がプログラミングを学ぶのにおすすめの教材
多数ある教材の中でも、子供でも楽しく学べるプログラミング教材があります。ここからは、小学生でも楽しく学べる学習教材を3つご紹介します。
SPACEBLOCK(スペースブロック)
「SPACEBLOCK(スペースブロック)」は小型のマイコンボードで、パソコンに接続することで様々な文字や画像を表示できるプログラミング教材です。パソコンで作成したプログラムをマイコンボードに転送することで、文字や画像をマイコンボードから表示できます。
マイコンボードでは文字や画像を表示するLEDパネルの他、オプションで光や音などを調べて数値化できるモジュールもあり、プログラミングの幅が拡がります。
micro:bit
「micro:bit」はイギリスのBBCが中心となり教育用として開発された小型ボードで、パソコンまたはスマートフォンやタブレットで作成したプログラムを転送して動かすことができます。プログラムは子供でも簡単にできるビジュアルプログラミングだけでなく、テキストベースのPythonでも作成可能です。
Scratch
「Scratch」はアメリカのマサチューセッツ工科大学で無償公開されているビジュアルプログラミング言語です。ブロックをつなぎ合わせて簡単にプログラミングできるため、キーボード入力に慣れていない子供でも簡単にプログラムが作れます。
画像や背景なども多数用意されており、簡単なゲームを作成することも可能です。また、世界中で利用され、作成されたプログラムが公開されており、自分が作ったプログラムを公開することもできます。
プログラミングを学ぶ上で押さえておくべきこと
プログラミングは、ただ学べば自然に身につく簡単なものではありません。プログラミングに限らず、楽しくなければ理解が進まず挫折してしまうこともあります。プログラミングを学ぶ上で押さえておくべきポイントを解説します。
目的を決める
アプリ、Webサービス、ゲームなど、プログラミングによって何を作るか目的を決めましょう。「プログラミングを学ぶ」ことそのものを目的としてしまうと、いつまでも終わりがなく、そのうち飽きてしまいます。モチベーションを維持して学習を継続するためには、プログラミングを学んでなにをするのか、明確な目的を決めておくことが大切です。
自分に合った教材を選ぶ
今やプログラミング教材は豊富にあります。無料で利用できるWebサイトや動画、プログラミングスクールもあります。しかし、合わない教材や学びにくい環境では、プログラミングが思うように身につかないばかりか、時間ばかり浪費しかねません。
自分が楽しんでプログラミングを学べる教材を選びましょう。
相談できる相手を探す
プログラミングの学習では、時に自分が思うようなプログラムができず、壁に当たることもあるでしょう。わからないときに相談できる相手がいないと挫折してしまうため、会社の同僚や友人など、相談相手を見つけておくことが大切です。
特に、子供にとって身近な相談相手は保護者です。子供がプログラミングを学ぶ際は、保護者の方も一緒にプログラミングを学ぶことが重要です。
子供でもプログラミングは学ぶべき
本記事では、子供のときからプログラミングを学習する必要性について解説しました。社会背景に関連する点はもちろん、発展した情報社会で生き抜くためには、プログラミングは必須といえます。
そのため、今や「子供でもプログラミングを学ぶべき」と言える状況になっています。焦らず少しずつ学習し、将来プログラミングを役立てられるようにしましょう。