プログラミング教育のメリットとは? デメリットも解説
2020年に小学校、2021年には中学校で、プログラミング教育が必修となりました。プログラミング教育を学ぶことでメリットがある一方で、デメリットもないわけではありません。本記事では、プログラミング教育を行うことのメリットとデメリットについて、具体的に分かりやすく解説します。
- 【メリット1】プログラミング的思考が身につく
- 【メリット2】問題解決能力が身につく
- 【メリット3】想像力・創造力が身につく
- 【メリット4】コンピュータの仕組みを理解できる
- 【メリット5】コミュニケーション能力が身につく
- 【メリット6】将来の職業選択の幅が広がる
- プログラミング教育のデメリット
- プログラミング教育の目的
- 学校以外で行うプログラミング教育
- メリット・デメリットを理解してプログラミング教育を活かそう
【メリット1】プログラミング的思考が身につく
プログラミング教育の目的の1つとして「プログラミング的思考を身につける」ことが挙げられています。プログラミング言語などの技術を学ぶのではなく、考え方を学ぶことが目的です。
プログラミング的思考とは「目的の動作をさせるために、どのような処理をどのような順序で組み合わせたらよいか、ということを論理的に考える力」です。
コンピュータは、1つ1つの命令を順番に実行するというシンプルな動作をします。そのため、意図した動作をさせるために細かく処理を組み合わせていかなければなりません。プログラミング教育では、プログラミングを通して試行錯誤し、コンピュータを意図したとおりに動かすための考え方を育みます。
たとえば自動販売機では、お金を投入して決められた金額になったら購入ボタンが押せるようになり、購入ボタンを押すと商品が出てきます。このような動作を「待ち受け状態を表示する」「投入したお金を表示する」「購入ボタンを点灯する」「商品を出す」「おつりを出す」などの処理を組み合わせて動作を実現していきます。
このようにプログラミング教育では身近なものに焦点をあて、1つ1つの処理をどのように組み合わせて意図したとおりコンピュータを動かせるか、という考え方を身につけます。この論理的思考力を身につけることで、コンピュータをさらに活用できるようになります。
【メリット2】問題解決能力が身につく
プログラミングスキルを身につけても、作成したプログラムがすぐに正しく動作するとは限りません。プログラムが正しくなければ、コンピュータは思うように動作しません。コンピュータはプログラミングされた内容に基づいてしか動作しないため、思い通りに動かなければ、必ず作成されたプログラムに原因があります。
プログラムを作る上で重要な作業は、きちんと正しく動くかどうかの動作テストをすることです。動作テストで想定通り動かない場合、原因を特定し取り除かなければなりません。プログラミングと動作テストをひたすら繰り返すことで、品質の高いプログラムが完成します。
プログラムの動作テストを繰り返すことで、問題解決能力が身につきます。質の高いプログラムを作るには、そもそも不具合を生まないように作成するためのプログラミング的思考と、問題が発生した際に素早く原因を取り除く問題解決能力の両方が求められます。
プログラミング教育では、プログラミングを通してプログラミング的思考を身につけるだけでなく、問題解決能力も身につきます。
【メリット3】想像力・創造力が身につく
プログラミングスキルを身につければ、1から自由にプログラムを作ってコンピュータを動かすことができます。この環境から、自由な発想から想像力・創造力が身につきます。
プログラミングは、1つの白いキャンバスに自由に絵を描くことと似ています。プログラミングとは、コンピュータに対して自分が想像したものを作り上げる作業です。
ゲームやアプリを使って「自分もゲームをつくってみたい」「オリジナルのアプリを作りたい」と考える子も多いのではないでしょうか。プログラミングを学ぶことで、自分がイメージしたオリジナルのゲームやアプリを作れます。
プログラミングによって、自分の考えた世界をコンピュータに映し出すこともできます。たとえばゲームやCGを用いた映画は、全てプログラミングによって作られています。さらに今ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)によって、プログラミングされてできた仮想空間を映し出すことも可能です。
今では小学生でも無料で簡単にゲームやアプリを作ることができる環境も整っており、作成したプログラムをインターネット上に公開することも可能です。オリジナルのプログラムを作成していくことで、より創造力が身につきます。
【メリット4】コンピュータの仕組みを理解できる
家庭にあるテレビや電子レンジは、ボタンを押せば動きます。これがどのような仕組みで動いているか、興味を抱く子もいるのではないでしょうか。プログラミング教育では、ボタン1つで動くコンピュータがどのような仕組みで動くのかを学びます。
プログラミングを行う際に、コンピュータの仕組みを理解することは大変重要です。プログラミングさえ分かればコンピュータを使って何でもできるというわけではありません。コンピュータができることにも限界があります。そのため、まずは仕組みを知り、「コンピュータを使って何ができるのか」を理解しなければなりません。
たとえば、ネットショッピングを楽しむ場合も、購入ボタンを押していつまでたっても画面が切り替わらないようでは、そのサイトで商品を買おうとは思わないでしょう。想定通りに動くプログラムを作っても思うように動かない場合は、コンピュータが動作する仕組みから原因を考える必要があります。
プログラミング教育の教材では、実際に自分でロボットや装置を組み立て、プログラムを転送して動かすことで学習するものもあります。プログラミングだけを知っているのでは、効率よくコンピュータを動かすことはできません。プログラミング教育では、コンピュータの仕組みを理解することも、目的の1つとなっています。
【メリット5】コミュニケーション能力が身につく
プログラミング教育を行うことで、コミュニケーション能力を身につけることができます。
プログラミングは一人でコンピュータに向かって黙々と行っているイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。しかし実際は、プログラマーやシステムエンジニアもコミュニケーション能力を求められます。
プログラマーの仕事では、顧客の要件をもとにシステムエンジニアが作成した設計書に基づき、プログラムを開発します。このとき、設計書の内容を正しく理解するよう、システムエンジニアと細部までコミュニケーションをとる必要があります。
また、開発するプログラムはシステムの規模が大きいほど数も膨大となります。その場合、複数のプログラマーがチームを組んで開発を行います。効率よく開発ができるようチーム内で役割を決めたり、課題があれば協力して取り組んだりして進めていきます。
このように、プログラミングは多くの人とコミュニケーションをとり、正確に意思疎通ができることが重要です。
プログラミング教育でも、一人で黙々と課題に取り組むのではなく、分からないことがあれば周囲の人と協力して課題に取り組みます。その結果、コミュニケーション能力が養われ、協調性をもつことの大切さを学べます。
【メリット6】将来の職業選択の幅が広がる
プログラマーやシステムエンジニアなどのIT技術者以外にも、コンピュータを利用する職業はいっぱいあります。プログラミングを身につけておくと、多くの職業でそのスキルを活用でき、将来の職業選択の幅が大きく広がります。
プログラミングの知識を最も活かせる職業といえばプログラマーです。プログラミングで作成できるものはシステムやWebサイト、ゲーム、アプリ、組み込みプログラムなど、多岐にわたります。最近ではAI(人工知能)やVR(仮想現実)を扱うプログラマーは、注目されており人気の職業です。
また、一般的な会社でもシステムの運用・保守を行う部署である情報システム部門があり、IT人材を求めています。ここでも、プログラミングスキルがあれば、業務の自動化、効率化に活かすことができます。
たとえば、プログラミングスキルがあればそれまで手作業で行っていた定型作業をプログラムによって自動化することにより、短時間で多くの作業をこなすことができます。このような定型作業の自動化は多くの仕事で役立ちます。
今後もAIやIoTなど情報技術はますます発展が見込まれるため、プログラミングは将来に役立つスキルと言えます。
プログラミング教育のデメリット
プログラミング教育を実施することで多くのメリットがありますが、逆にデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。プログラミング教育を行うことのデメリットを解説します。
学習のための費用がかかる
小学校ではプログラミング教育の科目自体が追加されるというわけではないものの、プログラミング教育は専門の塾や教材があるほど内容が特化しています。そのため、プログラミング教育を学習するためには、追加で費用がかかることがあげられます。
たとえば、実際にプログラミングをしようと考えるとパソコンやタブレットが必要です。一部の学校では児童一人ひとりにタブレットを配布するところもありますが、それらを購入するための費用がかかります。
新たに必修化とされたことで、追加で費用がかかることは避けられません。高校では新たに「情報」という科目も追加され受験科目にもなるため、その分を勉強するための教材費も必要です。
手書きで字を書く機会が減る
プログラミング教育でよく使われるのが、ビジュアルプログラミングです。これはパソコンやタブレットを使用して学ぶもので、1つ1つの処理がブロックとなっており、ブロックを並び替えることでプログラミングしていきます。
小学校低学年でも容易にプログラミングを行える反面、常にコンピュータを利用して行うため、手書きで字を書くことがありません。
自分の手や指を動かして文字を書くことは脳を活性化させる上でも大変重要です。コンピュータを使うことで、自分の手で文字を書くことがなくなり、学習効率が低下する可能性があります。
インターネットのトラブルにあう可能性がある
コンピュータはプログラミング以外にもインターネットを介してさまざまな情報を調べたり、ネットショッピングを楽しんだりすることができます。しかし、インターネットやSNSを利用してのトラブルが多く発生しているのも事実です。
そのため、インターネット上の世界でも気をつけなければならないことがあります。ワンクリック詐欺やフィッシング詐欺などのネット詐欺、情報漏洩やなりすましなどのセキュリティ犯罪などにあわないようにしなければなりません。
子どもがこれらのトラブルにあわないよう、フィルタで制限をかけるなど、十分な対策を行うことが大切です。
プログラミング教育の目的
プログラミング教育には、多くのメリットやデメリットがあることをご理解いただけたのではないでしょうか。ここで、本来プログラミング教育を必修とした目的を見ておきましょう。
新学習指導要領では、小学校においてはプログラミング的思考の育成、中学校ではプログラミングおよび情報セキュリティ、高校では「情報I」科目の新設をあげています。これにより、小・中・高等学校を通してプログラミング教育を充実させています。
特に小学校に対しては、文部科学省による「小学校プログラミング教育の手引」(※1)において、プログラミング教育のねらいとして以下の3点を挙げています。
・プログラミング的思考を育む
・コンピュータの仕組みを知り、上手に活用する
・他の教科への理解も深める
それぞれのねらいを見ていきましょう。
出典 ※1:文部科学省「新学習指導要領のポイント(情報活用能力の育成・ICT活用)」
プログラミング的思考を育む
プログラミング的思考とは、意図した一連の動作を実現するために、どのような動きをどのように組み合わせていけばよいか、論理的に考える力のことです。
コンピュータは、動きを組み合わせた「プログラム」によって動作します。そしてプログラムを作成する作業を「プログラミング」といいます。つまり、プログラミングをするためには、コンピュータに対してどのような動きを組み合わせればよいかを考える、プログラミング的思考がとても重要です。
小学校では、プログラミング技術を学ぶことが目的ではなく、プログラミングに取り組むことで考え方を学ぶという点が特徴です。
コンピュータの仕組みを知り、上手に活用する
生活においてコンピュータはさまざまなところで使われており、社会は情報技術によって支えられていますが、実際にコンピュータを利用している人は、コンピュータがどのように動いているかを意識することはありません。
コンピュータの仕組みが分からず、またどのようにコンピュータが動いているのか、どんなところで活用されているかが分からなければ、コンピュータを上手に活かすこともできません。
そのため、プログラミング教育において、コンピュータの仕組みや、そもそも身近なところで使われていることなどに気づき、また主体的にコンピュータを使って問題を解決し、よりよい社会を築く態度を育むことを、プログラミング教育の狙いとしています。
他の教科への理解も深める
小学校ではプログラミング教育を他の教科に取り入れることで、論理的思考力を活かしてより理解を深めることを狙いとしています。
たとえば、学習指導要領では授業の例として、算数ではプログラミングを用いて正三角形、正方形などの多角形を作図する方法を考える内容が挙げられています。その他、理科ではセンサーを使って自動的に扇風機を制御するプログラミングを行い、効率的に電気を使う方法を考える内容もあります。
このように、プログラミングを用いてさまざまな計算や実験を行い、それぞれの教科自体についてもより深く理解を深めることに繋がります。
学校以外で行うプログラミング教育
プログラミング教育は、学校以外の場所でも行うことができます。ここでは、学校以外で始められるプログラミング教育のおすすめの方法をご紹介します。
家庭内にもプログラミングを学べる環境を整える
家庭にパソコンやタブレット、およびインターネットに接続できる環境があれば、プログラミング教育を行うことが可能です。プログラミング教育の教材はインターネットから得ることもできますし、アプリを利用することもできます。
また、パソコンやタブレットがなくとも、プログラミング的思考を育成するためのカードやおもちゃも存在します。これらを利用することで、家庭でもプログラミング教育を実施できます。
セミナーやプログラミング塾の利用
小学校からのプログラミング教育必修化に伴い、プログラミング教育向けのセミナーやプログラミング教室が増えています。これらを利用する方法もあります。
プログラミング教室で学ぶ内容は、その教室によって異なるため、どのようなカリキュラムが組まれているか確認することが大切です。たとえば、ロボットを使ってプログラミングを学ぶのか、実際にコーディングをしてプログラミング技術に特化して学ぶのか、目的によってカリキュラムも異なります。
また、その教室で子どもたちが楽しんでプログラミングを学べるかどうかが大切です。体験教室の活用や、保護者も一緒に学べる機会があればそれを利用して様子を確認するのもよいでしょう。
プログラミング教材の利用
プログラミング教育に適した教材として、実際にプログラミングを作成するだけでなく、その動作を確認できるものもあります。プログラミングは小学生でもできる簡単な方法で実施できます。
たとえばプログラミング学習教材である「SPACEBLOCK(スペースブロック)」は、パソコンと小型の組み込みボードをつかって、実際にプログラミングを行い、プログラミング教育ができるキットです。プログラミングは用意された処理を組み合わせていくビジュアルプログラミングで、簡単な操作で実現できます。ここで作成したものを組み込みボードに転送し、文字や画像の表示や、簡単なゲームを行うこともできます。
プログラミング教材をつかうことで、楽しみながらプログラミングを学ぶことができます。子どもたちに合った学習方法を行うとよいでしょう。
メリット・デメリットを理解してプログラミング教育を活かそう
プログラミング教育は多くのメリットもありますが、同時にデメリットも存在します。社会インフラに深く浸透し、これからますます発展する情報技術を学ぶことは今や必須といえます。しかし、今まで学校のカリキュラムになかったものが必修となったことで、教材の費用がかかることや、インターネットにおけるトラブルに巻き込まれないよう注意が必要など、事前に対策をとることも重要です。
プログラミング教育の目的は主に3つが挙げられます。
・プログラミング的思考を育む
・コンピュータの仕組みを知り、上手に活用する
・他の教科(プログラミングと関連しない別の教科)への理解も深める
プログラミング教育は、プログラミング技術を学ぶこと自体が主目的ではなく、プログラミングを通して考え方やコンピュータを上手に活用することを目的としていることを押さえておきましょう。